2019/05/30 ニュース

アウディA6アバント55TFSIクワトロ試乗記 じつは良さばかりではなかった!?

 
2019年3月にフルモデルチェンジしたアウディA6。最初に日本へ導入されたのは、3リットルV6ターボ+マイルドハイブリッド(MHEV)搭載の55 TFSIクワトロだ。ついに1000万円クラスとなってしまったA6。今回は多くの雑誌やウェブで執筆する自動車ジャーナリストの内田俊一が、 ワゴンボディのアバントを700kmほど連れ出してテスト。その印象は、良いところが目立ってはいるものの、悪い点もチラホラ!? なんとも興味深いレポートを届けてくれたぞ! 

まずはV6 3リットルエンジンから導入

今回テストに供されたのは、48Vマイルドハイブリッド(MHEV)を搭載した3リットルV型6気筒エンジンに7速Sトロニック、そしてクワトロ(4WD)が組み合わされた55TFSIクワトロだ。最高出力は340馬力、最大トルクは500Nmを発生。0→100km/h加速は5秒1(欧州発表値)、最高速度は250km/h(電子制御リミッター作動)というカタログデータである。48V駆動のMHEVシステムは、おもにベルト駆動式オルタネータースターター(BAS)とリチウムイオン電池で構成。コースティングファンクション(惰性走行)は55~160km/hの間で可能で、スタート/ストップ機能(アイドルストップ)は22km/h以下に落ちると作動する。エンジン停止からの再スタートはBASによって行われるため、極めてスムーズだ。
●MHEVシステムを搭載した新型V6ユニット
減速時にはBASが最大12kWのエネルギーを回生し、MHEVテクノロジーによる燃費改善効果は、100km走行あたり最大0.7リッターであるという(欧州仕様参考値)。A6のクワトロは前輪駆動状態をベースとし、状況に応じて後輪への駆動配分をアクティブに予測制御することができる、高効率な新世代クワトロシステムを採用。前輪のみを駆動している場合では、プロペラシャフト以後をクラッチによって切り離し、シャフトを回転させるためのエネルギーロスを削減している。
●リヤゲートの角度は、横から見るとよくわかる。この角度で積載性は損なわれないの? という疑問は、後ほど解消してくれる
19年内には252馬力/370Nmの2リットル直列4気筒 TFSIや、207馬力/400Nmの2リットル直列4気筒TDIを搭載するモデルもラインナップに加わる予定である。足まわりに関しては、ダイナミックオールステアリングホイール(4輪操舵)を採用。市街地では良好な取りまわし性を、ワインディングロードでは俊敏な走りを、高速道路では優れた直進安定性といった、相反する性能を実現するために採用されたシステムで、およそ60km/h以下の低速域では逆位相に最大5度、60km/h以上では最大1.5度、後輪をステアする。

小まわり性抜群。乗り心地の良さも際立つ

諸元の説明はこのくらいで早速走り出してみよう。アウディの広報車デポでクルマを受け取り、狭い路地裏を抜けながら最初に感じたのは、ボディサイズが思ったほど大きくないということだった。これは全長×全幅が4950mm×1885mmという絶対値からくる印象からはほど遠く、4500mmほどのクルマを操っている印象なのだ。この理由は諸元のところで述べたダイナミックオールステアリングホイールにある。その作動に違和感はなく、小まわりもよく効くので、するすると路地裏を走らせることができた。あとで改めてスペックを調べて驚いた次第である。ちなみにダイナミックオールステアリングホイール付きの最小回転半径は5.2m、なしでは5.7mである。
●角度が少ないのわかりづらいかもしれないが、これが後輪操舵時の状態。取りまわしがいいのはコレのおかげ
当然路地裏ではストップアンドゴーを繰り返すことになるのだが、その際には積極的にアイドルストップが介入する。再スタートもBASがうまく動作しスムーズで振動もない。ただし、一時停止のたびにこれが繰り返されると、正直うっとうしくなることも事実。こういった徘徊時にはアイドルストップをオフにしたほうがストレスはなさそうだ。やっと路地を抜けて幹線道路に出ると、このA6のすばらしさが垣間見える。それはエンジンのスムーズさと滑らかな走り、そして乗り心地のしなやかさだ。高級感のある乗り味は1000万円を超える価格帯に相応しいものといえる。
●しなやかな乗り心地はA6ならでは
最近はDセグメントあたりでも4気筒が多くなっているなか、やはり6気筒のスムーズさは際立っている。アクセルに対するレスポンスもリニアであり、思ったとおりの加速も手に入れられる。一方、減速に関してはコースティング機能によりエンジンブレーキの利きが甘いことがあった。乗り心地のしなやかさも格別だ。特にダンピングコントロールの電子制御は秀逸で、多少荒れた路面でもボディをフラットに保つほかに、245/45R19インチの大径タイヤによるばね下の重さもほとんど感じさせないのだ。では、ワインディングでは心もとないかというと、決してそんなことはない。きつめのコーナーでもロールを感じさせずほとんどニュートラルステアで、かなり速度域を上げるとわずかにアンダーステアが顔をのぞかせる。しかしそれはかなりがんばった結果で、通常の速度域であればそういったシーンに遭遇することはまずないだろう。 

次ページでは燃費性能も


高い直進安定性

高速道路を走らせたとき、A6アバントは最良の面を見せる。ドライブモードをオートにしておけば、ダンピングコントロールは的確に路面の継ぎ目をいなしながら、ひたひたと距離をこなしていく。直進安定性も高く、軽くステアリングに手を添えておくだけ。無駄な修正舵は必要ない。後述するアダプティブクルーズコントロールを使用している時には、この高い直進安定性が裏目に出て、ステアリングを握るように促されるほどだった。静粛性も極めて高く、若干リアから音が侵入してくるものの気になるほどのことはない。高速では多くのシーンでアダプティブクルーズコントロールを使用した。その操作はステアリングコラムから左に生えているレバーで行い、レバー先端についているボタンを押せば完了。そこから速度を上げたければレバーを上に、下げたければレバーを下にすればよく、極めて簡単だ。最近では多くのクルマが、ステアリングスイッチでの操作を採用する傾向にあるが、こちらのほうがブラインドタッチができて便利に思う。その動作は、前車がいる場合の加減速は非常にスムーズではあるものの、追従時に前車がいなくなった場合、その前にクルマがいたとしても少し強めに加速して追いつこうとすることがままあるので、この辺りはもう少し熟成が必要と感じた。


●最新アウディのデザインにのっとったインパネまわり。使いやすいと思いきや?

●メーターパネルには、大きな地図の表示も可能

操作性で気になるところも

では気になる点はまったくないのかというと、やはりいくつかあげなければならない。そのほとんどが操作性に関するもの。まずはハザードランプのスイッチだ。きれいな曲線に覆われたセンタークラスターからセンターコンソールまわりはピアノブラックで高級感がある。そのちょうど間あたり、ドライブモードやトラクションコントロールオフのスイッチなどが並ぶ真ん中にそのスイッチは存在する。そこに凹凸はなく、かつ低い位置なのでとっさのときのブラインドタッチはまず不可能だろう。やはりハザードランプのスイッチはできるだけセンターパネル上方、しかも独立して存在すべきものだ。A8以降モニター画面は2つに分かれ、それぞれ機能を持たせてレイアウトされている。確かに見た目は非常に美しく高級感もある。しかし、例えば温度調整などをするにしても、やはり視線をそこに向けなければならないのは不便だし、危険でもある。このくらいはできれば物理ボタンで対応したいものだ。そうすれば手探りでなんとでもなるのだから。その画面に関しては反応も良く、また、ナビ自体の文字入力の認識も以前に比べればはるかに良くなったのは評価したい。
●フロントシート

●リヤシート
それから、ステアリングスイッチについても一考してほしい。ステアリングには左側にメーター内の画面の切り替え等のスイッチが、右側にオーディオ系のスイッチがまとめられている。しかし、オーディオ類のメイン画面はドライバーから見て左側に配されており、メーターは正面だ。これを踏まえると、オーディオ類のスイッチは左側に配するのが人間工学的にも正解だ。つまり、現状では右手で操作しながら左を見ることになり、ちぐはぐ感がぬぐえなかった。アバントであるから積載性も述べておこう。せっかく大きな荷室があることから、植木鉢などを運んでみた。デザインを優先したことからハッチゲートのガラス部分はかなり寝ているが、高さのあるものを奥へ置くようにすれば、十分な広さは確保しているといえよう。



●上が空の状態、下は荷物を載せたとき。大型の植木鉢もしっかりと収まる

1000kmは可能なタンク容量だが

最後に燃費だ。今回700kmほど走らせた結果、市街地:7.69km/L高速:14.39km/L郊外:11.73km/Lという値を得た。3リットルターボの6気筒ということを踏まえれば、十分に納得のできる数値ではあるが、高速ではもう少し伸びてほしい。大人しく走らせても16km台だった。ちなみにタンク容量の73リットルをフルに使えば高速で1050kmは走りきることはできる。
●高速道路での最高燃費値

●市街地での燃費
 少々ボディが大きくなり、価格帯も上がったA6。それらをデメリットにはせず、機能や品質感によりうまく仕上げている点は大いに評価したい。特に最近のアウディ同様高いボディ剛性からくる乗り心地の良さも十分堪能でき、良いクルマに乗っているという気持ちを味わわせてくれた。しかし、乗り終わってクルマを降りたのち、ふと振り返りたくなるような、もう少し乗りたいという思いには至らなかった。すぐにクルマのことは忘れ、それ以外の、例えば仕事や家族のことなどを考え始めてしまうのだ。それはたぶんむやみに主張してこない、A6が持つ控えめさがそうさせているのだと思う。これは決して悪いことではないのだが、もう少し何か主張してもいいような気もする。そのあたりは、今後登場するであろうS6、あるいはRS6が感じさせてくれることだろう。 <文=内田俊一 写真=内田俊一、内田千鶴子>
 

RANKING