2019/02/26 コラム

〈主査インタビュー〉ロードスター生誕30周年記念車に込めた思い、そして次世代モデルの話


●NDロードスター登場時はチーフデザイナーとして、現在は開発主査も兼ねる中山 雅氏

マツダは2月7日、シカゴオートショーにてロードスター生誕30周年記念モデルを世界初披露した。と同時に、ソフトトップとRFを合わせて世界限定3000台をシリアルナンバー入りで発売すると発表。この特別なロードスターに関して、現在同モデルの開発主査兼チーフデザイナーを務める中山 雅氏に話を聞いた。


世界限定3000台

中山 今日は、よろしくお願いします。―― こちらこそよろしくお願いします。しかしこの30周年のステッカー、かっこいいですね。中山 マークって大事だなと思っていて。社内で企画書を作るときも、まずマークを考えるんですね。そして企画書の上には必ずマークを。そうすると、みんなそこに気持ちを集約できるというか。ロードスター25周年のときにも作ったのですが、日本では使ってくれたんですが、グローバルで使われなくて。それはちょっと寂しいなと思ってました。この30周年のマークは、この企画が始まる前からデザインの拠点を総動員して、世界中でコンペをして作ったデザインです。もちろん会社の承認を取って、公式のものとしてリリースしています。なので、由緒正しいもので、かっこいいのは当たり前です(笑)。見ていただくとただの四角ではなくて、ちょっと角が丸いのがわかります。これは、NAのリトラのフタです。上から見ると、ちょっと角が丸いんですね。これ、NAユーザーならピンときます。


●ロードスター30周年を記念して作られたマーク


●30周年記年のマークは、NAロードスターのリトラクタブルヘッドライトのフタの形をしている。四隅のうち、ひとつだけが丸いのが特徴

―― 中山さんらしいですね!中山 というわけで今回の限定車のお話。意外に社内でも、30年分の限定車を知らないんですね。ざっとこれまでの限定車を並べた資料をマツダの経営者に見せて、「毎年これだけの限定車を出してますよ」と。「10周年、20周年、そして25周年もちゃんと出してますよ」と説明しました。これはファンのみなさんはご存知であり、30周年も何かしら出るに違いないと思っている。そしてファンミーティングに行けば必ず聞かれますと。「こんないっぱいあったんじゃのう!」というのが経営者の第一印象でした。ちなみに10周年のボディカラーに関しては、専用色のブルーを塗りました。これは工場にある既存色で、ロードスターには使っていなかった色を持ってきましたよと。25周年の赤いやつは、もともとマツダが第6世代と呼ばれているクルマにしか塗らないと決めていた色を持ってきた。じつはこのときの企画にボクは絡んでまして、提案した企画3つのなかの1つです。次世代の先取り、というコンセプトでした。つまり、10年も20年も25年も、未来志向というか、その時代の一番いい色をもってきましょうよという限定車。特に過去のことを振り返っただとか、そういうのはなかった。今年は25周年の次、30周年なんですが、その間に大きなイベントがありました。100万台達成ですね。100万台記念を経たうえでの、今回の記念車。100万台ご愛顧への感謝も込めたい。単純に未来志向だけではなくて、感謝もテーマに入れましょうよと。 

●ロードスター100万台生産を記念して、世界各国のファンがそのボディにサインをした
 

次ページでは?次期型の話も!

  

「感謝と期待」……次期型の型式はどうなる!?

―― すなわち、今回の限定車のテーマは何なんでしょうか?中山 ズバリ、テーマは2つ。何らかの形で、これまでの感謝を伝えたいというのが1つ。2つめはこれからの決意を伝える、ということで。どこかに、次世代への思いを入れたい……。―― 現行型はNDなので、次のモデルの型式はNEじゃないんですか?中山 いろいろとありまして。―― あ、フィアット版がNFでしたね!
●アバルト124スパイダー。車両型式は、NF型である
中山 そうなんです笑―― 順番に使っていくとなると、立ち行かなくなってしまいますね。Fを飛ばしたとしても、その次はG。NG型になっちゃう。こりゃダメだ(笑)中山 いずれにしても未来への決意もコンセプトに入れたい。ロードスターを続けていきますよというメッセージ。―― 話を最初に戻して、感謝のメッセージはどうお伝えするのでしょうか?中山 まず過去を振り返ってみようと。30年前のシカゴショーですね。「driver」さんのこの号(1989年3-20号)を見てみてください。じつは私、この雑誌を持っていました。青いミアータの後ろに、赤いクルマがあったこととか、すごく覚えていました。平置きには、白と青のクルマも置いてあって。都合、赤白青の量産車が置いてありました。じつはこれ、アメリカの国旗になっていると、ご存知でした?
●MX-5ミアータ(ロードスター)の世界初披露の舞台
―― そうなんだ。知りませんでした。中山 ボクは、当時の福田(成徳)本部長から聞いたんです。アメリカの国旗の色にしたんだと。日本の場合は、この色に加えてシルバーがあって、4色で発売。アメリカはこの3色にこだわって、赤白青の3色しか発売してないんですって。さらにドライバーさんのこの号を見ていただくと、この黄色のモデルが紹介されています。ちなみにボクが当時乗っていたクルマはCR-Xでしたが、モモベローチェレーシングのステアリングが付いていました。この黄色いクルマも、モモベローチェレーシングなんですよ、ということで結構覚えていまして。
●driver(1989年3-20号)、30年前のシカゴオートショー速報記事
 コトとモノという最近の言い方をすると、モノとしては3色の量産車があって、コトとして、ショーカーの黄色いコンセプトカーがクラブレーサーという名前で出てきた。これをリスペクトしましょうよとなりました。今回の限定車をシカゴオートショーで世界初披露するにあたり、ズバリ、これをひっくり返して再現しましょうよと。当時、コトだったクルマが、モノとなって実現して、黄色ではないけれども、ビビットな色のクルマとして。あとは、初代は赤で、2代目は10周年記念車の青、20周年記念車は青と白があったんですが、白を持ってくると、きれいに赤白青になって、当時のモノがコトになり、コトだったものがモノになると。それが過去へのリスペクトです。 
●シカゴオートショー2019では、オレンジの30周年限定車の傍らには、30年前をイメージさせる赤、青、白の歴代限定車が展示された
 当時、コトだった黄色のモデルはクラブレーサーという名前。レーシングな雰囲気になってました。今回の限定車も、そういう雰囲気にするために、基本的な部品はRSのものを持ってくると。クラブレーサーのキャリパーは黄色でしたけれども、30周年限定車のブレンボのブレーキをオレンジ色にしています。それに合わせてリヤも。ブレンボは、通常モデルでもRFなら、17インチのBBSホイールを付ければ入ります。ですが、16インチにはは入りません。そこで今回はレイズさんに、16インチにブレンボが入るように、鍛造で、新しくホイールを作ってもらいました。
●新規で作られた16インチのレイズ製アルミホイールと、オレンジ塗装のブレンボ製ブレーキキャリパー
 ―― ブレンボは、部品自体はRSと同じものだけれど、色がオレンジなんですね。それを16インチにも入れるために、レイズに新規で作ってもらったと。中山 16インチはもちろん、17インチのほうも、レイズさんに鍛造で作ってもらいました。レイズさんは、787Bのホイールも作ってもらったので、昔からマツダと縁があって。かつグローバルMX-5カップのホイールもレイズ製(ZE40)です。そんなレーシーなホイールを持ってくるという意味でも、当時のクラブレーサーのコンセプトを体現すると。 
●グローバルMX-5カップカーのホイールもレイズ製
 ―― 16と17、両方用意するのですね。中山 そうです。日本でいうと、30周年限定車のRFには17インチが入り、それはグローバルMX-5カップのクルマとほぼ同じホイールです。でも、ほぼと言ったのは、17インチも専用で作ってもらったからです。―― え、違うんですか?中山 あれは、幅が広いんです。グローバルMX-5カップのホイールは7.5Jです。今回は、7Jのものを作ってもらっています。―― そもそも、なぜオレンジなのですか?中山 ここまでやってもらっても、エモーショナルな企画をやるときは、経営陣にも気持ちよくなってもらわないといけない。というわけで、今後の、すなわち夜明けにこだわりました。それがこのオレンジなんです。―― 日没のほうじゃないんですね(笑)中山 夜明けです! これは、今回の取材のために作ってきた、オレンジの御神体です。ソリッドのオレンジ。ソリッドのオレンジって、色開発がすごく難しいんです。インテリアとか、シートのパイピングとかも、オレンジステッチで仕上げています。―― RSのシートで、パイピングとかステッチがオレンジ色になるわけですね。
●今回の取材のために作られた、ソリッドのオレンジ塗装が施されたオブジェ。ちなみに奥に見えるのは、オーナーへ渡されるオーナーズブックと、オリジナルの時計。どうやらこの時計も販売するとかしないとか……
 
●効果的にオレンジがあしらわれたレカロシート。形状そのものは、RSと同様
 
●ドアトリムや、エアコンルーバー、インパネのステッチなどもオレンジでコーディネート
 

次ページでは? 細部にまでこだわった30周年記念車の秘密

 
●中山氏も立ち会ったという、30周年記念車の公式写真。場所は、生産される宇品工場の屋上
 

広島から生み出された名車の誇り

中山 ちなみにこの写真は、広島の宇品の工場の屋上で撮影しました。ボディカラーがマル秘のモデルなので、撮影する時間とかが難しかった。基本的に夜明け、朝の5時ぐらいからスタンバイして、夜明けのタイミングでバシャバシャと撮影して。予算的なものも正直あるのですが、それよりも、広島で生まれたばっかりのところを撮影して、世界中に写真として出すほうがいいのかなと。あえて広島で撮影しました。今回の限定車の生産は3000台をマックスにしているので、シリアルナンバーをふります。30周年なので、3000台というの数字にはこだわりました。というのも、3000台ぐらい作らないと、世界中に行き渡らないんです。500台ぐらいだと、正直お渡しできないところが増えてくる。とはいえ、3000台でも少ないです、量産車としては。それこそ収益出すという意味では、レイズさんとかにはすごく頑張ってもらいました。彼らにすれば、3000台しかないわけですから。そのために部品を作るというのは難しいのですが、そこはみんなでがんばって。レカロさんもそうです。ステッチとかパイピングのオレンジがボディカラーと合っているので、外からみるとすごくかっこいい。
●30周年記念車のインパネ。シートはもちろん、シフトノブやパーキングブレーキまわりにもオレンジステッチが入る
 
●こちらも公式画像。後ろの煙は、火力発電によるもの
 ―― こういう色、ロードスターに似合うんですね。中山 じつは何色でも似合うんですよ、と思っています。大概の色は、実車に塗って検証してるんです。青い色とか緑色とかも塗っていて、基本的に似合うんです。ND型はわりとシンプルなデザインなので、色開発のときに塗って駄目かもしれないという心配はありませんでした。通常、外板色はいわゆる板に塗ってみて確認するのですが、さて実車に塗ったときに「おや?」と思うことはたまにあります。でも今回に関しては似合わないということはないとみんなわかってましたから。これは、この写真は、宇品の工場は石炭で火力発電してるんですけど、そこの煙をバックに撮影したものです。―― さらに詳細を教えてください……。え、ホイールに刻印入ってるの!?
●フロントホイール&ブレーキ。ホイールには、「30th Anniversary」と刻印が入る
中山 入ってるんです。「30th Anniversary」と。ホイールに刻印するというのは、レイズさんぐらいしかない技術らしいです。グローバルカップカーは、「GLOBAL MX-5 CUP」と「Made in Japan」というのが掘ってあります。今回の刻印も、ちょうどそこに。そうやって特別感を作るのと同時に、ブレンボのキャリパーには、ブレンボさんが持っていたすごく似たオレンジがあったので、それをそのまま使わせてもらいました。後ろはニッシンさんのブレーキなので、ニッシンさんにはこのブレンボさんの色に合わせて新しく作ってもらって。ちゃんと、NISSINという文字も入れてもらいました。―― どこにですか?
●リヤのブレーキキャリパーは通常モデル同様にニッシン製。キャリパーはオレンジ塗装が施され、「NISSIN」とロゴが入る
 
中山 ブレーキの、キャリパーに。最初、字を入れましょうよといったときには、「そんな、いいですよ……」という感じだったのですが、われわれは入れてほしくって。なぜなら「Brembo」って文字はあるのに、「NISSIN」と入っていないのは不自然だなと思って。ニッシンのブレーキは、バイクのレースではすごい有名だから。尊敬しているので、ぜひ入れてくださいとお願いしました。この限定車は、いろんなメーカーさんに協力をいただいてできているんだよということを表現したくて。それをいろんな人にわかってほしくて。
 ―― このND型が出たときに、ボディカラーとして、昔で言うザ・スポーツカー的なビビットな色ってなかったじゃないですか。それでいいのかなって思っていたのですが、こういう形で出すんだなというのが腑に落ちたというか。ストーリー性もちゃんとあるし。中山 オレンジを発想したのは、じつは最近なんです、正直に言えば。過去の限定車は、すでにマツダが持っていた色を塗ったものでしたが、今回に関しては新たに作った。この先の話はわからないですけど、このクルマに塗って終わりかもしれません。ロードスターだけになるかもしれない。そのぐらい難しい色を専用に作ったというのは初めてですね。―― マツダの今は、塊というか束で訴求していますけど、この限定車が唯一外れた色になるわけじゃないですか。中山 それは、前田(育男 常務執行役員 デザイン・ブランドスタイル担当)とかともいろいろ議論しました。スポーツカーだから、当然ソリッドカラー、ビビッドな色が似合うのはわかっている。一方で、ブランドの統一感を重視しようというのはあって、そのなかでこのオレンジがどういう位置づけになるのか。でもロードスターというのは、マツダブランドの真髄みたいなもので、ロードスターである以上は、絶対にブランドからは外れない。―― どのぐらいの時期にこのオレンジを発想したんですか?中山 30周年は、このND型で迎えることは当然わかっていたので、現行車が出た当時から議論はありました。25周年でソウルレッドを売ってしまっているので、ちょこちょこっとした色じゃインパクトはないなとは思っていました。候補として上がったのは黄色とか、青とか。でも、今のストーリーに合うのはオレンジかなということで。黄色は、技術的に難しいというのはあるんですが、それ以上に、台数が期待できないんです。多くの人が、声を大にして「黄色がほしい」と言われるんですが、記念車というのはより多くの人にお渡ししたい。―― 要望と、実際の台数って一致しませんよね。黄色って、最初にイメージカラーとして出したりしますけど、人知れず消えていく。中山 FD(RX-7)のときにもRX-8のときにも1年か2年ぐらいで黄色が消えていて。あんまり出ない色というのがわかっていますから。―― グローバルでそうなんですか?中山 そうですね。ちょっと女の人受けしないなっていうのも感覚としてあって。男としては、フェラーリとかも黄色があったりして受けはいいんですが、女の人って黄色はじつは食いつきが悪い。オレンジになった瞬間に「かわいい!」って言ってもらえます。―― ホイールの話をもう少し詳しく。ホイールは、臓物(ブレンボ)がでかいから、ホイール自体を薄肉化したということ?中山 そうです。とはいっても、現行の16インチは6.5Jなんですが、限定車のものは7Jにしてあります。17インチはもともとも7Jなので、両方ともに7Jということになります。タイヤの幅も変更せず195のまま。ホイールのインセットも変えていないので、ちょっと外側に出る感じ。いい感じのツライチになっています。―― 何も付加物付けなくても、日本の車検は大丈夫そうですか?中山 大丈夫です。BBSで17インチ×7Jのホイールがありましたから、レイズさんも自信があったと思います。でも、16インチというのは未知数。単純に作るだけなら簡単らしいですが、完成車メーカーが要求する剛性とか強度って非常に厳しい。特に強度。割れたらアウトです。剛性は、われわれがロードノイズを妥協すればいいのですが、強度に関しては相当に厳しい。「なかなか難しい」と言われながらも、やっていただきましたね。―― ホイールの幅が広がるだけで、ちょっと走り面も変わりそうな気がします。中山 よくなっていると聞いています。ウチの操縦安定性開発のメンバーが言うには。タイヤの横の剛性が上がったような感じになるので、よりクイックになっているそうです。それと、当然ながら軽いです。もともと17インチのノーマルよりもBBSの鍛造のほうが軽いのですが、それ以上に、16インチはサイズ違いで軽い。そもそも小さいですから。加えて鍛造ですから、ND史上、一番軽いホイール。その軽さによって、慣性が小さいから最初の転がり、ひと転がりが違う。ジャイロ効果が小さいので、軽快に回ると。―― このホイールは、高値取引ですね笑 どのぐらいの重さなんですか?中山 まだお伝えできないのですが……適切な時期に、お答えします。 

次ページでは? はたして何台日本で売られる?

日本には何台やってくるのだろうか?

 ―― これ、日本は何台ぐらいになるイメージなんですか? 300台とかあるんですか?中山 ……。ちなみに25周年限定車は、25台です、日本は。たったの。―― 世界ではどのぐらいなんでしたっけ?中山 じつはちゃんと公表していない部分があって。でもじつはそれほど少なくありません、じつは。―― え、となるとこのオレンジは?中山 (25台よりは)もっとありますよ、ということです。25台のときは、かなりご批判を受けたので。あれは、NCのモデル末期でしたし、しかもあくる年に新しいのが出るとわかっているタイミングでしたから。―― あれは確か、NDのシャシーを出したあとに発表した限定車でしたよね?中山 今回は、そこまで少ない台数ではないということだけお伝えしておきます。―― そういえば、マツダ3の全体のフォルムにもこのオレンジ色が似合いそうですね。中山 確かに、互換性はありますよね。逆にマツダ3のポリメタルグレーとか、あれはロードスターに似合うんですよ。同類の面質なので。どっちかに似合えば、どっちかに似合うんです。
●近々、日本でも発表されるであろう新型マツダ3。新たなボディカラーとして、樹脂のような雰囲気と、金属調を併せ持った「ポリメタルグレー」の設定もある。ロードスターへの採用は間違いない!?
―― この限定車に関して、事前にリリースされた写真だと、RFだけに設定されるのかなと思っていました。
●シカゴオートショーが開催される約1カ月前となる1月9日、マツダが公開した写真がこれ。うっすら、RFのルーフが見て取れた
中山 最初は、2リッターで統一しようってことになりました。それは、ブレンボを入れるために。となると、日本はRFしかこの限定車を造れないことになっちゃう。いや、日本にも2リッターのソフトトップを入れるんですかと。それだとわれわれの目が白くなっちゃったのかと言われてしまう。だから、16インチのほうにもブレンボを入れなきゃいけない。当初は、16インチにはブレンボを入れないようにしようかなと思いました。でも、それじゃコンセプトに合わない。―― この3000台、ソフトトップとRFでどう割り振るんですか?中山 基本的には、各国の輸入元が決めます。自国のニーズに合わせて。―― 注文があって、そのオーダーに合わせて作っていく、ということですね。中山 このエンジンで、タイプはどっちで……とか、現時点ではまだ公表できませんが、なんとなく作って割り振る台数は決まっています。基本的には世界中2リッターしかないし、グレードが1個しかないので。ソフトトップにしますか、RFにしますかっていう単純な選択肢なので。
●世界限定3000台。ソフトトップ、RFを合わせての台数である
―― 日本ですね、ややこしいのは(笑)中山 地元の日本でね、RFだけかよとか、そういうのはよくないと思いまして。だからこそ、ブレンボが入る16インチホイールをレイズさんに作ってもらったんです。―― 現時点で、日本ではまだソフトトップのほうが台数は出てますよね。中山 前モデルと比べると、確かに。半分以上がソフトトップですから。前のモデルは、圧倒的にRHTが人気でしたから。今回の限定車では、ソフトトップがいいんじゃないなかなと、個人的には思いますけどね。1.5リッターで、ブレンボが入るし。―― そういう面でいっても、魅力的ですもんね。色だけじゃなくて。中山 一番レアなのは、間違いなく日本のソフトトップですね。全世界で。―― でも、ヨーロッパには1.5リッターありすよね?中山 ありますが、この限定車では出しません。欧州は全部2リッターにしました。―― おいくらなんですか? この限定車。広報 発売は……春先ぐらい。いや、春先以降。―― オープンカーの気持ちいい時期?中山 そうですね(笑)広報 もうちょっと遅いかもしれない。―― 暑くなっちゃう?広報 (春先)以降、なので。―― 夜明けがけっこう早い時間になってからですね。中山 いやいや、どうですかね……(笑)

次ページでは? オレンジに込めた思いとは?

   

「レーシングオレンジ」に込められた高ぶり

―― レーシングオレンジという名前には、何か思いがあるんですか? スポーティな仕様というのはあると思うんですが、あえてレーシングと付けた理由。中山 レーシングというのは、ホントの自動車のレースではなくて、ファン!ってふかすことをレーシングというじゃないですか。辞書を引くと、心が高ぶるだとか、そういうのにかけたのがレーシング。それ以外にもいくつか候補はあったんですが、高ぶるというのは表現できていなくて。―― 例えば、サーキット、とか? でもそれじゃ、まんまサーキットしか思い浮かばなくなっちゃいますもんね。中山 もしくは、回路、とかね。レーシングって、最初はベタ過ぎる?とも思われるのですが、説明すればわかってもらえるかなと。名前を決めるのも大変でした。
●シカゴオートショー2019での中山氏。この夜明けをイメージさせるオレンジは、次世代ロードスターへの決意表明でもあるという
―― 次のクルマのお話を最後に。型式として“E”になるかどうかは置いておいて、ここまで引き継いできたものは、今後も続いていく、その決意表明でもあるわけですよね。正直、次のクルマってすごく難しいと思うんです。NCが、ちょっと大きくなったとか、なんやかんや言われて、そこからNDになって、ちっちゃくしたんだ!って。クルマにそれほど詳しくない人でも、「おお、ちっちゃくしたんだ、マツダすごいね」ってなる。でも、NDでここまで基本に帰って作ったクルマの次って、さてどうなるんだろいうか、心配。それは期待感の表れでもあるのですが。こうなりたい、こうしたいんだということを実現したのがNDじゃないですか。もうすでに、中山さんのなかに構想はあるのですか?中山 確かに言われたとおり、NDって、大変でしたけれど、方向がわりと明確でした。―― NCの時代、「大きくなった」と言われたロードスターですが、RX-8と基本部分を共有化しなければ続けていくこと自体困難だった。そんな時代を乗り越え、NDでは「原点回帰」を掲げて開発されたわけですもんね。中山 そうです。でも変わらずに真ん中を走りながら、何かを生み出すってじつは難しい。―― 変わらないことがロードスターだって言うけれど、代々、じつは個性的。なので、NDの今、一本道をどうやって走っていくのか。このオレンジは、今のマツダからもちょっと外れて、目新しさが見えるじゃないですか。そういう意味でも、すごくおもしろい。中山 なんにしろ、盛る方向で進化したというのはやめようと思っています。といいつつ、今でも、ちょっとずつ盛っていますから。安全装備の追加とか。ただし、オフセットして重量を上げないようにってやっていますが。一度付けて重くなって反省して取り外して、という方向なのか、重くならない技術ができあがるまでにやらないのか。後者のほうが、進化の仕方としてありなのかなと。なので、もうこれからもズレない。ずっと、レーンディパーチャーワーニングが働いているような笑―― だって、テレスコピックが付いただけで議論がありますもんね。マツダ社内の人に、「あれはどうなんですか?」と聞くと、「おれはいらないと思うんだけどな」っていう人もいる。一方で、あれは絶対いるっていう人もいる。
●2018年6月発表の改良時に、テレスコピックステアリングを歴代初採用。手前に30mmの調整が可能となった
中山 そうなんです。でも、これに関しては私は極めて明確な意思を持っています。マツダが何を偉そうなことを言ったって、ドラポジが、ステアリングが遠いっていう人が圧倒的に多い、ロードスターの場合。過去のロードスターは、ボクもそうですがスペーサーをかましています。スペーサーをかまして動かせるクルマを作っているんだったらいいですが、今はエアバッグとかがあって動かせない。だったら、調整できる装置をつけることが正しいエンジニアリングだと思うんです。重いからといって手段から除外するのはエンジニアリングではなくて、軽くして入れるのがエンジニアリング。重いから入れない、それがロードスターの精神なんだっていうのは違う。NAは自分で代えられたんですから。代えられないというのはNAから退化してるんだから、それは正しくない。例えばデザイナーが、安全とか理由をつけて「かっこ悪くなりました」と言っているのと、もしかしたら次元は同じかもしれません。それは、エンジニアは絶対言っちゃいけないんです。実際、NDのテレスコピックは400グラムの重量増に抑えてくれています。ウチのエンジニアのがんばりで。昔のままだったら、何キロもするので、付けなかった。NCは、エアバッグを付けて、テレスコは何キロもするから付けなかった、ということです。技術の進化ですね。―― このオレンジのクルマ、過去への感謝と未来への号令と受け止めれば、次のロードスターもブレずにいくよという宣言とも取れて、とても期待できるなと思いました。中山 今年1年間、30周年というお祭りなので、いろいろとやっていくつもりです。まだ言えないこともたくさんあるのですが。このマークをたくさん見る機会があると思います。―― このマークは、フリー素材?中山 バラしてはいけないとか、背景に模様を入れてはダメとかいろいろルールはありますが。RCOJ(www.open-inc.co.jp/rcoj/)さんは、このマークを使ってステッカーを作ってらっしゃいます。ネット販売してらっしゃいますけれど。白と黒セットで500円だったかな(笑) 〈文=編集部〉 

次ページでは? 歴代ロードスターのアニバーサリー車はこちら

 ●歴代記念限定車の歩み1999年10周年記念車[世界7500台]1.8リッターの6速MT車をベースとし、イノセントブルーマイカの外板色、光沢バフ仕上げを施したアルミホイールを採用。内装色は黒を基調としながら、外板色と協調するブルーを組み合わせたツートーンとし、メーター外周のクロームメッキリング、センターコンソールパネルにはカーボン調素材を配している。ブルー色の専用キー、シリアルナンバーを記したオーナメントなども装備。さらに、オーナー認定証、オリジナル腕時計などを含むギフトセットを成約者に進呈した。なお国内仕様のみ、ピストンなど一部のエンジン部品は重量バランスに注目して厳選したものを組み込んでおり、吹け上がり・伸び・レスポンスのよさを追求した。

  2009年20周年記念車日本市場での20周年記念車は、最初のフェイスリフトを受けたNCロードスターのソフトトップ「RS(6速MT)」及び、RHTの「VS RHT(6速AT)」をベースに、クリスタルホワイトパールマイカの外板色に赤と黒の内装色を組み合わせた。バケットタイプのレカロシート、20周年を表す専用オーナメント、クリアタイプのフロントフォグランプなどを特別装備。また欧州市場では、クリスタルホワイトパールマイカに加え、トゥルーレッドとオーロラブルーマイカのボディカラーを1.8リッターエンジン、5速MTのソフトトップのベースグレードに組み合わせて販売した。
 2014年25周年記念車2度目の外観リファインが施されたNCロードスターのRHT(6速MT)をベースに、ソウルレッドプレミアムメタリックの外板色、ブリリアントブラックで統一したルーフ、フロントピラー、ドアミラー、オフホワイトのレザーシートおよびドアトリム、手塗り仕上げのインテリア装飾パネルなどを盛り込んだ。また、ベストバランスを求めて、ピストン、コンロッド、フライホイールなどエンジンの回転計部品を厳選し、よりスムーズなエンジンフィーリングとサウンドを追求した。

https://driver-web.jp/articles/detail/14771/

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